有閑やさぐれゲイ日記~怠惰・色欲・暴食のはざま~

"仕事"はしているもののほとんど働く必要がなく、暇をもてあまし煩悶する30代のゲイの日常です。

PrEP(HIV予防薬)を思ふ~制御と渇望のはざま~

このところ、ナイトスポットのような場所に行くと、PrEP(プレップ、HIV予防薬)を服薬しているという人に会うことがちらほらある。

 

PrEPとは、適切に服用することでHIVへの感染率を限りなくゼロに近づけることができる薬である(詳しくはググってください)。

セックスワーカーの方や、性交渉の頻度が高いゲイなど、HIV感染の機会が多くなりやすい人々、いわゆるハイリスク集団が、事前に予防薬を服用することによって、HIV感染を予防することができるらしい。

 

俺がPrEPの話を聞いたゲイの方は、クリニックにて毎月1万円、自由診療にて処方してもらい、毎日服用し、不安が大幅に軽減された楽しいセックスライフに励んでおられるらしい(このようなスタイルを「デイリーPrEP」というらしい)。

 

このほかにも、「オンデマンドPrEP」というものもあるらしく、こちらは行為の24時間前に1回とその後24時間ごとに2回、文字通りオンデマンドに服用するらしい(個人的に最近こっちにすごい興味がある。死ぬ前に種の壺なるものになってみたい…)。

 

そんなPrEP。

初めてその存在を知ったのは、いわゆる発展場と呼ばれるゲイ専用の夜の施設(それ専用の施設で性のお相手を見つけるハプニングバー(完全な「自由恋愛」という点では、程度差はあれ、比較的ソープに近い?)のようなもの)だった。

 

なんでそんな話になったのか、詳細な経緯は思い出せないが、たしかそれなりに感染確率がある行為を始めようとする際に、「大丈夫だよ、俺、PrEP飲んでるから!」と俺を安心させるために言ってくれたのだと思う。

 

その言葉を耳にして、それまでエロに満ち満ちていた俺の脳内に、隔世の感ともいえる場違いな感慨とノスタルジーが生じてしまったのである。

 

・・・時はさかのぼり、高校出たての18歳の青葉の頃。

「はじめてのゲイのお友達をみつけよう!」という趣旨で、初々しい若者ゲイの出会いのためのイベントが某区役所で開催され、俺もそこにウキウキで馳せ参じていた。

 

ただ、当時はこんにちでいうマッチング・アプリの黎明期、俺も高2ぐらいでそれなりに深夜時間帯のゲイワールドに踏み込んでいたので、それほど初々しいわけだったわけではない。

 

ただ、それでもそのイベントでは思わず面食らう、ポッと頬を赤らめる可愛らしい出来事があった。

 

18年以上の歳月が過ぎたので書いてしまうが、そのイベントでは参加者の自己紹介とちょっとしたミニゲーム、歓談の後に、「正しいコンドームの着用方法クイズ」が出題されたのである(行政の助成等を受けるための条件だったのかな?、などとうがった見方もしつつ…)。

 

「根本までちゃんと装着しないと、液が漏れちゃうよ!」とか、「お口に入れるときは、装着しなくても大丈夫かな?」とか、なかなかパンチが効いた、しかし感染症予防という観点からはきわめて適切な啓発がなされたのである。

 

安全でクリーンな性生活に役立ちそうな「プレゼント」も用意されていたため、俺を含め(俺がほしかったのは、ひとえにTENGA社の商品だった)、参加者一同やる気十分だった。

 

イベントの後に映画館デートに行った後にフラれた人と、デートに行く前にして、安全な性交渉に関する大事な話し合いをする機会が得られたわけである。

 

こうしてコンドームによる性感染症予防という知識は、強烈なエピソード記憶として俺のなかに刻み込まれたのである。

 

その後、15年以上の歳月が流れたのであるが、今では自制してコンドームを着用するよりも、昔啓発されていた「自制」を、新しい「自制」で、一部上書きするようになりつつあるらしい。

回りくどいので言い換えると、つけんのマジ無理だから、もうつけないで薬飲むっす、みたいな。

 

もちろん、コンドームで防げる性感染症をPrEPですべて防げるわけではなく、PrEPが有効なのはあくまでHIVであり、梅毒などの他の感染症を防ぐことはできない。

 

ただ、それでも現時点では完全な治療法が存在しない(治験段階ではあるのだろうか?)HIVを防げる意義は大きいのだろう。

 

それに、理性と自己制御から装着されるゴムという「障壁」があるセックスと、「障壁」が一切ない肉薄したセックス、「障壁」をなくしてやったぜ!という背徳感に満ちたセックスを比べたとき、前者に勝てる余地は果たしてあるのだろうか?

 

少なくとも、俺のようにドスケベで目先の快楽に弱い人間に、自己制御できる自信はない。

しかし、大げさかもしれないが、この無鉄砲・無計画をさらにコントロールすることができるのが、PrEPのような気がしてやまない。

 

俺は俺をコントロールできない。だって、ナマの方がぜってー気持ちいいもん。

だったら、それを自覚・自認する俺をコントロールしてやるみたいな、メタ認知のような、諦念のような、最適解のような、不思議な合理性。それが俺がもつ、ごく個人的なPrEPの偏ったイメージである。

 

こういうのを、最近ちらほら耳にするハームリダクションって言うのかな?ただ、お薬ゆえに日々服用していたら、腎臓に負担がかからないのかな?と、不安を覚えつつ。。。

だって、かつてのお友達づくりイベントが描いていた「本来」であれば、服用しなくても良い薬なのだから・・・。

 

・・・・・・このように自己コントロールするゲイが増えれば、HIVの新規感染者数は減少していくのかもしれない。

さらに大局的にみるならば、HIV治療薬をはじめとする高額療育費の抑制(削減)にもつながっていくのかもしれない。

 

・・・・・・うら若き頃、ゲイの同輩と熱く(?)語り合った、HIV予防のための正しいコンドームのつけ方講座。

それが今、ウイルスの遺伝子レベルの操作により、コントロールされるようになりつつある。

 

こう書くと大げさかもしれないが、「ちんちん、大きいと破けちゃうかもしれないよ!」とキャッキャウフフしていた時代から見ると、やはり隔世の感を禁じ得ないのである。